行動なくして
実現なし
001.想い

記者席は誰のためのものか

いつもブログをみてくださっている皆様

今年もよろしくお願いします。

 

今年に入ってから、これまで書いた文章の整理をしていて

ブログの更新を休んでいたが、

小さなニュースに大きな怒りを感じたので

深夜パソコンに向かっている。

 

フリージャーナリストの江川紹子氏が

小沢一郎氏の裁判を取材するため、

傍聴席をあらかじめ1席割り当ててほしいという

訴えを東京地裁に起こしている。

 

「何の話だ?」という人も多いと思うので丁寧に書く。

裁判は誰でも傍聴できるが、

席数を超える傍聴者が集まった場合、抽選が行われる。

大きな裁判の抽選は熾烈になりかねないので

裁判を担当する裁判官が

あらかじめ取材を希望する新聞やテレビの記者に対し、

1社につき1席とか2席を割り当てることがよくある。

裁判官は裁判をある程度報道して欲しい。

また、仮に記者席を与えず、

メディア各社が大量のアルバイトを抽選に投入した結果、

傍聴席を占拠されたら困るので便宜を図る。

 

裁判官から便宜をはかってもらえるのは、

各地の裁判所記者クラブに入っていて

普段から取材する機会の多いメディアに限られている。

記者クラブが優遇される理由は

加盟している大手メディア各社の実績と安心感だ。

記者席の便宜はメディアと裁判官が

かっこ良く言えば、

「国民の知る権利を確保する」ために

折り合いをつけた結果、存在するのである。

これに対しフリージャーナリストなど、

記者クラブに入っていないメディアが裁判を傍聴する場合、

記者クラブを通じて記者席を要望する方法もあるが、

手続きに時間を要するので現実的ではない。

実際、江川紹子氏はこれまで数々の裁判で抽選の列に並び、

抽選に外れた時は、

当たった人から席を譲ってもらってきたという。

 

江川紹子氏は

今月間近に迫っている、小沢一郎氏本人が証言に立つ裁判が

高い倍率の抽選になると心配し、

裁判官に記者席を割り当ててほしいとお願いしたが、

裁判官は取り合おうともしなかった。

だからその裁判官を東京地裁に訴えた。

 

「江川紹子氏だけ特別扱いするのはおかしい」と思う人もいるだろう。

しかし実績でいえば、

全国の裁判所記者クラブに所属する大手メディアの中で、

江川紹子氏以上に

国民の知る権利にこたえているメディアはないと思う。

私自身、NHKで裁判記者をしていたときも退職後も

江川紹子氏の著作に多くのことを学んだ。

また、大きな裁判の度に

大手メディアが江川紹子氏にコメントを求めたり、

傍聴記を依頼していることを考えれば

江川紹子氏が

裁判というものを誰よりも国民に伝えていることは明らかだ。

記者クラブに席を渡すのが

「国民の知る権利を確保する」という理由なら

江川紹子氏にも席が割り当てられるべきだ。

また、江川紹子氏は数えきれないほどの裁判取材をしているが

裁判の進行を妨げるようなことをしたという話は聞いたことがない。

一度法廷で一緒になったことがあるが、

頻繁に席を立って法廷を出入りする記者よりも、

ずっと静かに傍聴していた。

 

記者クラブは裁判所に限らず

警察、検察、各省庁、県庁、大きな市など

ありとあらゆる大きな役所、大企業に存在する。

記者クラブは、

国民の知る権利を確保するために、

メディア各社が役所や企業などの大組織と交渉するためにあり、

各社が報道に必要な共通の利益を得るための場所である。

ここでいう共通の利益とは必要最低限のものであり、

記者クラブに所属するメデイアも

独自の取材、自由な取材が

活動のベースであるべきことはいうまでもない。

 

私は「記者クラブが不要だ」という気はないが

いま、多くの記者クラブが

国民の知る権利ではなく、

記者クラブに所属する

「メディアの知る権利」のための存在になっている。

ここ数年、記者クラブが批判にさらされているのは

こうした実態がフリージャーナリストらによって

明らかにされているからだ。

 

国民の知る権利を確保するために

メディアが団結するのが

記者クラブ本来の姿である。

小沢一郎氏が証言に立つ裁判までもう時間がない。

江川紹子氏の申立書と

東京地裁が訴えを却下した文書を見る限り

勝訴は期待できない。

東京地裁の記者クラブに良心があるならば

江川紹子氏に記者席が認められるよう

裁判所と交渉するべきだ。

国民の知る権利を確保するために行動してほしい。

 

記者席は誰のためのものか。

記者席は、

国民の知る権利にこたえようとするジャーナリストのためのものだ。