記者として平成16年から3年間、仙台市でタクシー業界を取材しました。タクシー業界は規制緩和によって、新規参入や増車が容易になり、経営者が少しでも利益を得ようとタクシーの台数を増やした結果、仙台市では、タクシーが全国1の割合で増え続けました。空車のタクシーが市内中心部の交通の妨げとなり、そしてなによりも、1台あたりの客が減ることで、運転手の生活にしわ寄せがいくことになりました。
過当競争で疲弊した仙台市のタクシー業界は、国に、規制を元通り強化するよう求めました。ほかのメディアにも大きく取り上げられた結果、国は規制を見直すことにしました。しかし、増えてしまったタクシーは、減らすと減益につながるため、元には戻りません。運転手の待遇はまったく改善されませんでした。業界の要望は結局、既得権を守るだけのようにしか見えませんでした。
私は当時、運転手の給与体系を、固定給と歩合給と併存するシステムにしたうえで、規制緩和を維持して自由競争にする。そうすれば台数の増加によるリスクを運転手だけでなく経営者も負担することになるので、安易な増車は経営上できなくなり、問題の解決はできると考えてきました。しかし、こうした考えに賛同してくれる人は、業界にも、業界を所管する国土交通省やその傘下の運輸局にもいませんでした。行政は、他の地域と比べて前例のないことをやりたくないという考えが強く、業界は、1社だけ違うことをされたくないという横並びの考え方が強かったのです。運転手の最低限の生活を守ることができず、問題の根本解決をできなかった行政と業界に強い憤りを覚えました。
この取材体験がきっかけで私は、社会が多様性をもって成長発展していくためには、「節度ある自由」の実現が原理原則ではないかと考えるに至りました。「節度ある自由」は、社会のあらゆる場面で必要とされています。いま、政治はこの国の将来像をえがけていないと批判されています。私は、「節度ある自由」が、日本の目指すべき将来像と考えています。